百円坊主様
ある日の超暇な夕方、私は「BURRN!」か「週刊プロレス」、
マスターはナンクロ(ナンバークロスワードパズル)を熟読
しておりました。
当時は暇続きで、最初はボケ防止にと私が買ってきてやった
ナンクロですが、マスターはみるみるうちにレベルを上げ、
今では雑誌の末ページに載る全問正解者欄に毎月自分の名を
残すのがライフワークとなっておりました。
どれだけ暇だったのでしょう。
応募締め切りが近い中、超人レベル問題を解いている途中
だったらしく、舌打ちの嵐。
解けない問題のせいで非常に機嫌が悪い事は伝わりました。
そんな気まずい雰囲気の中で、運悪くいつものお客様が。
ビールを出して、マスターからカレーを受け取ると、
お客さんのもとに。
…。ん?お客さんが固まってる。
お客様の目線を追うと、入り口に笠をかぶったお坊さんが。
ああ、百円坊主か…。
今では全く遭遇しませんが、静かにお店へ入店され、
優し気にお経と鈴を鳴らし、こちらがお布施というか、
とにかく100円を渡すとお辞儀をされてお店を出ていかれる
ので、当時の野毛では通称「百円坊主」そう呼んでいました。
今考えると罰当たりですね。
…でも今日のお坊さん、何だかいつもと違う。
ちょっと怖い。
お客さんが固まるのも分かる雰囲気出していました。
しかも、昨日も百円坊主さん来ていて連続。何だかお坊さん
づいてるよな、と思いながらマスターに、
「百円坊主だから100円ちょうだい」と百円を要求。
しかし、今日のマスターは超絶に機嫌悪し。
「いやだね!!
父さん今日は絶対出さないぞ!」
は?何言ってんだ、そんなデカい声で。聞こえちゃうじゃん。
そんな事しているうちに、入り口では腹の底から全力で
お経が唱えられ始めました。
放置しているお客さんが心配で、私もだんだんパニックに。
自分の財布を取り出そうとバックに手をかけたのですが、
当時流行っていた小さい鍵つきのバックで、小さい鍵が
鍵穴に入らない!馬鹿馬鹿!なんでこんなバック買った?
お坊さんの声はますます低くラウドになってゆきました。
こ、怖すぎ!
あ!忘れてた、お客さん、お客さんどうしてる?!
放置されていたお客さんは、お坊さんの声量で壁際まで
追い込まれていました。
私を見つけるなり、お客さんは
「ひゃ、百円、俺が出す!」
お客さんは私に百円を託し、私は急いでお坊さんの所へ。
百円を差し出すと、一枚の紙を物凄い勢いで押し付け
お店を出ていかれました。
「はぁ~、終わった~」
私はお客さんの隣でドカッと倒れこみ、お客さんと
同じ苦難を乗り越えられた喜びを分かち合いました。
もちろん、百円はお返しし、全然酔えなかったさっきの
分まで楽しいお酒を飲んでもらって父にツケました。
ちなみに、お坊さんにもらった紙は力強い毛筆で
「こんな人は地獄行き」みたいな事が108個書いてある
恐ろしい紙でした。
紙はお客さんが記念にもらっていきました。