大絶賛のお客様
ある日の午後、私がおつかいに行って店に帰って来た時の事です。
お会計を済ませた感じの1人の初老のお客様が、マスターの手を
両手で握ってブンブン振り回しているのに遭遇しました。
ちょっと引いた私は一歩後ずさりをして、二階に避難しようと
したところ、そのお客様に発見されました。
Aさん「ああ、あなたが娘さん?」
私「あ、はい、」
A「今ね、このマスターに、今までの人生の中でとびきりな
ハヤシライスをいただいてね、お礼をしていたんだよ、
今まで食べたことのない、独創的な味で大感動したよ」
私「はぁ、そうですか、それは良かったです」
A「あんた、こんな素晴らしい腕を持ったお父さんがいて幸せだよ!」
私「…(苦笑)」
A「じゃあ、マスター、本当に美味しかった、ありがとう」
満面の笑顔でお客様は私とも両手で握手を交わし、
出口に向かわれました。
しかし、思い出したようにお客様は振り返り、
笑顔で両手を突き出して、
「グッド、GOOD、グーッド!!」
とおっしゃってお帰りになりました。
何事も起こらずに終わった事に私はちょっとホッとしました。
一緒に見送っていた父に
「あんなに喜んでもらって良かったね」と言ったのですが、
どうも父の顔がさえない。
私は何だか胸騒ぎがして、父に
「どうしたの?」と聞きました。
父は照れ臭そうに衝撃的な事を言ってきました。
「父さん、あの人に間違えて
カレー出しちゃったよ…」