「空飛ぶハンバーグ」

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皆さんは「…もう、死のう…」と
思った事がありますか?
私は何回かあるのですが、これは人生の中で
かなりのランキング上位にノミネートされる
出来事でした


当時の花咲町店は狭いし、階段がとにかく急でした。
その日は珍しく混んでいて、1階も2階も満席でした。
2階には近所の6人家族様が何かのお祝いで会食され、
手前のテーブルは仲良しカップルのお客様でした。
ようやく2階家族のハンバーグが出来上がり、とにかく早く
お客さんに出したかった私は、マスターから3個の熱々
ハンバーグを受け取ると、1階から2階へ駆け上がりました。
2階の段差をトンッと上って団体様に向かって
「ハンバーグ、お待たせしました~!」
とそっとテーブルに置かれる。
自分の中では進行していました。
でも実際は違ったのです。

「はうっ」

右足がフロアの段差につまずき、バランスを崩し、右手の
ハンバーグが2階のフロアにぶちまかれました。
右手にはハンバーグがのってない、ただの白い皿が残り、
重いのが急に軽くなったので、勢い余ってひっくり返りました。
その直後左手もグラつきました。
しかしなんとか左手のハンバーグ2つはバランスをキープ、
必死でこらえました。
…が!幸運は長くは続かず、左手がハトヤ状態に。
ヌルッ!床のデミグラスソースに足を滑らし、そのまま6人
家族さんのテーブルに向かって、私はダイブしていきました…。

何か大変な状態の時って、スローモーションになりませんか?
地面に倒れる瞬間、私は団体さんの席にいた恐怖におののく
お姉さんの顔と、残り2つのハンバーグが宙に舞っているのを
スローモーションで目撃し、床にベタンと転がりました。

「ギャー!」

尋常じゃない叫び声を聞いて我に返り、立ち上がった瞬間
また滑って転びました。
フロア中のお客様が一斉に立ち上がり、私を起き上がらせ
たり、エプロンとか顔を拭いてくださいました。
部屋中飛び散ったハンバーグだらけで、まさに地獄絵。
あれ、さっきのお姉さんだけが立ち上がっていない。
…!! か、肩に

肩にハンバーグのってる!

さっきの尋常じゃない叫びはお姉さんでした。
私は急いで肩の熱々ハンバーグを取り除き、お姉さんの
肩を拭こうと思いましたが、他のお客さんに「動かないで!」
と制止されました。ドロドロに拭かれても汚れるばかりで
永遠に綺麗になりませんから。
こうして、手前のカップルのお二人と、奥のお姉さん以外の
ご家族の皆さんがものすごく手際よくお掃除してくださり、
お姉さんと私を残して、何事もなかったかのように
部屋はピカピカになりました。

その後、皆さんお食事をして頂きました。
あれから3年くらいの間は、道でお姉さんに会うたびに謝り続け
ていました。
自分が調子に乗っていると思った時は、必ずこの事件を思い出し
自分を戒めています。

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