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↑河童のご本尊像 もっと詳しく知りたい方は
 店頭で販売中の洋食キムラ50周年記念本をどうぞ。


仕込みの合間、どうしても起きていないといけないので、
寝落ちを防ぐ為に長編エピソードを。
何度も言いますが、お店の情報ではありません。
くだらない長話にお付き合いしていただける方はどうぞ。

先日、面白いエピソードを共有しているお客様と
偶然お会いしたので、これも縁だと思いその話を
ご紹介します(許可済みなので)。

キムラのお店には先代から伝わる河童のご本尊があります。
そもそも何故に河童なのかというと、芥川龍之介の
「河童」という小説に先代がリスペクトしたのがきっかけ
です。興味がある方は読まれるといいですが、とても暗く
ブラックユーモアに溢れたお話です。
生きている時に、
「おじいちゃん、どこら辺にリスペクトされたの?」と
聞いておけばよかったと後悔しています。
ともかく、先代がその河童のお話が好きな著名人の方々と
「河童会」という会を作り、夜な夜な河童談義をしていた
というのが始まりです。その後、彫金家(彫金師?)の方
がご本尊を作成し、先代が河童のマークを作成して、
現在に至るということになります。
どんな話をしていたかというのは不明です。何故なら
そのメンツがお見えになると、「子供は早く寝ろ!」
と、祖父に怒鳴られて追い払われていました。
三代目はまだ生まれていないか、赤ちゃんでした。

その後、小学校低学年位の時でしょうか、私は母の日に
貯めたお小遣いで毛糸の厚手の靴下を購入。プレゼント
用にしてくださいと言うのが恥ずかしかったので、家で
プレゼント使用にカスタム。ハサミか何かを探している
時に、引き出しの中から桐の小箱を発見しました。
恐る恐る中身を見てみたら、綿に包まれた河童の
小さい像が入っていました。
「なんだ、これ」
小判か何かと思ったら、全然地味なのが入っていたので、
がっかりしながら元に戻しました。

それからしばらくしてマスター(父)にあの桐の箱の事を
聞いたところ、マスターは怖い顔になって

「あの箱を開けたのか?」

と、聞きました。マスターの顔が余りにも怖かったので、
「開けていない」とプルプルしながら嘘をつきました。
そうしたら、マスターはホッとした顔で
「あの箱には河童のご本尊が入っていてね、絶対に
 開けたらいけないんだ。河童が出てきてイタズラを
 していくから。河童のイタズラは怖いんだ。悪い
 事が起こらないように、普段は絶対に開けない。
 だけど、店の不景気が底をついた時には箱から出して
 『河童様、どうか助けてください』とお願いすると
 河童が不景気を持って行ってくれるんだよ」

私の所に河童が出てくる!

それを聞いた晩は、恐怖で全然寝れませんでした。
次の日、憂鬱な気持ちで学校へ行きました。
学校では友達の中に河童が混じってるんじゃないか、
帰り道も尾行されているんじゃないかとか、非常に不安
でした。お店が不景気だったらいいのに。
今不景気かな?そもそも不景気ってなんだ?
「ただいまー」
店に帰って、厨房に声を掛けました。
母はいつもと違うサンダルを履いていたので、
「ママ、くつは?どうしたの?」
と問いました。

「今日ね、玉ねぎをお父さんと切っていたら、大きい包丁
 を落としちゃったの。お父さんも落としちゃったんだよ。
 二人して落とすなんて不思議だね。お父さんは大丈夫
 だったんだけど、母さんはサンダルにブスッと刺さっ
 ちゃったんだ、でもアンタにもらった靴下が厚かった
 から、サンダルと靴下は切れちゃったんだけど、
 足の指は無事だったよ」

…!!やっぱり河童来た!

私は大急ぎで、二階に上がり、河童のご本尊の箱を
取り出して、箱に向かって手を合わせました。
「すみません、ごめんなさい。許してください」
子どもながらに思いつく謝罪の言葉を並べ、本気で
謝りました。人生初の土下座です。
その後はこれと言って祟りはなく、大人になりました。 

そんなことすら忘れていた時、ある常連さんがお友達の
方とやってきました。
「ねぇ、河童のご本尊、この人に見せてくれないかな」
私は即座に断りました。
「いやです。絶対にいやです。」
お客さんはやっぱり諦めきれず、
「そこを何とか頼むよう、、友達もカメラを持ってきて
 るんだよ、遠くからはるばるこれの為にだよ」
常連さんのすがるような目を見ると、気持ちが揺らぐ。
…、私はもの凄く悩みました。ご本尊を出すリスク、
私の子供の時の話も知ってる昔からのお客さんだった
からです。
結局私は見守るだけで、箱から出すのと、戻すのを
その常連さんがするという事で話がまとまりました。

大丈夫、大丈夫、祟られても恨まないから

常連さんは嬉しそうに箱からご本尊を出して、写真を
撮らせてあげて箱に戻し、嬉しそうにお帰りになり
ました。
何日かはその常連さんの事が気になっていましたが、
連絡も来ないし、大丈夫だったんだろうと思っていま
した。
一週間くらい経った頃でしょうか、その常連さんは
来てくださいました。私はその姿に驚愕しました。
松葉杖を脇に、凄く嬉しそうな顔をして、店のドアを
杖でコンコンと叩いて私を呼ぶ常連さん。
急いでドアを開けると、

「当たった!俺、バチ当たった!あれからすぐにさ、

足の指骨折しちゃった‼」

私:「こわっ!」

骨折してるのにその常連さんは非常に嬉しそうでした。
とにかく早く言いたかったらしいのですが、
直接会って、骨折までの経緯とかを話したくて
頑張って来そうです。電話で良かったのに。
だから言ったじゃん。
そう思ったけれど、骨折してるからご愁傷様ですと
言って別れました。
その後、その常連さんは他のお客様を連れて来られると
120%その話を私を呼んでするようになりました。
多分一生のネタとなることと思います。

でも、その話を父にしたらところ、父はなんと、
頼まれたら気軽にご本尊を見せてあげていたらしい。
しかも誰も傷ついていない。バチなし。
そもそも、箱開けちゃ駄目だって言ってたじゃん。
私が子供だったから触らせないようにしたのか?
でもマジでバチ当たったぞ。しかも2回も。
もしかしたら、マスターには免疫があるのかもしれない。
色々考えましたけれど、もう私が箱を開ける事はない
ので考えるのはやめました。

都市伝説好きな常連さん達が
「河童会のメンバー、全員フリーメイソン説」
とか、今でも笑っちゃう説を出して、お酒の肴にしたり
しますが、河童会のメンバーも皆さん天国ですし、
実際の所は誰も何もわかりません。

「箱、開けるの今なんじゃないの?」
かつてバチが当たった常連さんがおっしゃっていました。
そうですね、今なら不景気を持って行ってくれるはずです。

マスター、誰か、
もうそろそろ開けてくれ

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